「「カルチュラル・スタディーズ」という文化」の研究:素朴な疑問

[追記あり]

遠い国の高邁な議論ばかりに夢中になるのは学者の悪い癖です。まず目の前の身近な疑問に取り組みましょう、ということで、カルチュラル・スタディーズをカルチュラル・スタディしてみよう。

「「文化研究」の文化」の研究

「」の入れ子がポイントです(ふざけてないよ)。

  • (1) バーミンガム大学現代文化研究センター(Centre for Contemporary Cultural Studies、1964-2002)とか、普通に「現代文化研究」(現代 Contemporary の語も大事そう)と訳せそうな単語の並びが、英語版Wikipediaにも固有名詞風に Cultural studies の項目が立って、(さらにはCultural Studies(大文字)を単数の固有名詞として用いる例もあるらしく、)日本語でもカタカナで「カルチュラル・スタディーズ」と呼ばれるようになったのはどういう経緯なの? 関連して、略称の「カルスタ」(柄谷行人が今はなき『批評空間』編集委員後記でそう書いたのが最初とされるが本当なの?)と「CS」(もしかしたら初期の伝道者・上野俊哉あたりが使い始めた略称か? GSと語感が似ており、ロック雑誌にうってつけな感じだけれど)はどう使い分けたらいいの?
  • (2) ロック・バンドの周辺には喧嘩・暴力のイメージが(かつては?)つきまとったように思うのですが、日本のCSも、顔役クラスの人に逆らうと面罵・鉄拳制裁・闇討ちとか、物理的な危険があるの? CSな上野俊哉(宮城県出身、和光大人文卒・中央大法博士中退)とオタクな東浩紀(東京都出身、東大教養博士終了)の確執に毛利嘉孝(長崎県出身、京大経卒・広告代理店からロンドン大へ)が絡むエピソードとか、まさにそういう脈絡で都市伝説化しているような気がするのですが……。関係者の学歴の対比も何かを語っていそうだし、CSの顔役さんが東北人と九州人(毛利氏は英国留学後しばらく九州の大学にいた)なのは偶然?
  • (3) 東大教授吉見俊哉がお墨付きを与えたからCSが日本の大学で大手を振ってできるようになった、みたいな感じがあると思うのだけれど、吉見先生はニューレフトなの? 第二次大戦中にエリック・ホブズボウムと一緒にレイモンド・ウィリアムズが英国共産党で……、みたいな感じに何か活動歴とかあるの? それとも、ノンポリ東大教授がCSを認めたことが、スタートアップ企業で言う「キャズム」を越える出来事で、いわゆる「ヘゲモニー闘争」的に重要なの?

イギリスのニューレフト―カルチュラル・スタディーズの源流

イギリスのニューレフト―カルチュラル・スタディーズの源流

とりあえずこんな本を買ってみたのだが。
カルチュラル・スタディーズ入門―理論と英国での発展

カルチュラル・スタディーズ入門―理論と英国での発展

  • 作者: グレアムターナー,金智子,Graeme Turner,溝上由紀,鶴本花織,成実弘至,毛利嘉孝,大熊高明,野村明宏
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 1999/05
  • メディア: 単行本
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次にこっちを読んで、第2章のCS小史と訳者(事実上、毛利嘉孝さん?)の解説で雰囲気はつかめた気がします。バーミンガム大学現代文化研究センターが新左翼系の人たちの拠点になって、(a) 研究センターの課題、手法など (b) センター関係者の「キャラ」・カリスマ性 (c) 文学部や社会学部といった従来の学科割りに「介入」する研究センターの在り方、これらが渾然一体となったものが「カルチュラル・スタディーズ」と呼ばれているらしい。初期の研究センタースタッフに、労働者のための成人教育プログラム経験者がいることは、とてもイングランドっぽい感じがする。

そして日本でブームになった(ブームが仕掛けられた)のは1996年と見ることができそうで、毛利嘉孝さんのあとがきの「檄文」調の勧誘(とても左翼っぽい)は、CSが、折しも大学院改革で量産されつつあった「何かをやりたいけれど上手くテーマが見つからない大学院生」のハートを掴みつつあった当時の盛り上がりを窺わせる(訳書刊行は1999年)。