ありもしない「外国人の立場」

この試みの機会を与えてくださったのは岩波書店編集部の十時由紀子氏であった。初めてお目にかかり、企画の説明を承ったときにとくに嬉しかったのは、妙な言い方になるが、いくつかのことを氏が私から期待しないでいてくれることであった。[……]十時氏ははじめから、ありもしない「外国人の立場」から見た瞽女唄の解説などは望まれなかった。また、氏は「西洋音楽一辺倒の日本人は昔の文化の良さを忘れている」といったマスメディアで繰り返し強調される紋切り型のメッセージを世に送るよう、私に要請することもなかった。

人生、往々にしてポリシーを貫くことが叶わないものですが、敬愛する人物を世に送り出そうとするときには、そのようにありたいものだ。

瞽女うた (岩波新書)

瞽女うた (岩波新書)