東京藝大の応用音楽学は音楽のアート・マネジメントを学ぶところなのだと知り、これを本格的に「学問」として立てるとしたら、音楽マネジメントの実証的な歴史研究が出てきておかしくないんじゃないか、と思いついて、
でも、そこは音楽史研究でも手薄でこれからの領域なのではないかと気がついた。ベートーヴェンの家計簿、本当は貧乏じゃなかったシューベルト、とか、そういうものすごくミクロな話はあるけれど……。
教会の「経営」がどうなっていたのかは、私には見当もつかないので保留して、ヴェネツィアの初期オペラの劇場については、それなりに研究がありそうなのでこれもパス。
- 宮廷オペラの劇場は、どうやら貴族たちがインテンダントを拝命していたらしいのだけれど、劇場運営にも、絶対王政時代の経済史に出てくる重農主義と重商主義の対立みたいに、いくつかの流儀・路線があったのだろうか?
- アダム・スミスが産業革命後のイギリスから自由主義市場の「神の見えざる手」の学説を立てたような感じに、近代的な劇場経営の原型を作った事例・人物・劇場というのがあるのだろうか。ハプスブルク家のナポリとウィーンのドメニコ・バルバイアとか、パリ・オペラ座のルイ・ヴェロンとか、そのあたりの有名人が鍵を握っているのだろうか?
- 劇場経営論にも、経済学批判のカール・マルクスみたいな人はいるのだろうか? ひょっとして、それがしばしば劇場改革の提言をしたワーグナーだったりするのだろうか?(「ワーグナーの経済学」、新書になりそうなテーマかも。新ドイツ派の教祖フランツ・リストはパリでサン・シモン主義にはまっていたみたいだし、何かそういった話を作れそう。)
- 狂い咲きのように20世紀前半のヨーロッパを席巻したバレエ・リュスのディアギレフは経営者としてはどうだったのか?
- 20世紀にも名物インテンダントみたいに名前の出る人がいるけれど、フォーディズムのように「イズム」と括れる経営モデルを確立した人がいたり、あるいは、「自由主義市場は無理!」のケインズみたいな人がいるのだろうか?
等々という下ごしらえがあったうえで、
- 近代日本の劇場もしくはコンサート経営は、「前近代的な絶対主義段階に留まっているから、まずは近代化が必要だ」、「いやいや、既に彼らは近代ブルジョワ化を達成している」という風に、ストロークや原善一郎の功罪、それをいかに乗り越えるかの議論に「講座派」と「労農派」の路線対立みたいなものを設定できたりするのだろうか?
- そして、戦後の音楽マネジメントに「日本型経営システム」の語をかぶせることができたり、音楽マネジメントの構造改革をめぐって「音楽マネジメントという教養」が書かれる可能性はあるのだろうか??
出来の悪いパロディのように使ってしまって申し訳ありません……。
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これなら、劇場法とかグローバル人材とか言われる時代に真正面から対応する感じで業績をアピールできそうですし、文化史・社会史はおそらく今現在の院生以上の世代があらかた掘り尽くしてしまうでしょうから、これから大学院へ進もうか、というあたりの人は、音楽の経済史を考えてみてはどうでしょう。
さしあたり、卒論・修論で劇場経営史のどこかに杭を打ってみる、とか。
文学部や音楽学部の学位論文に数式がいっぱい出てきて、『美学』の誌面に「パレート最適」とか、「下方硬直性」とか、そういう単語が散乱する光景が見たい!
これからの西洋音楽史は、グルデンとターラーとフランの換算表が頭に入っていなければ。そして今時の美学者が分析哲学で頭の体操をするように、来るべき感性は各種統計資料の解析で鍛えられる(かも)。認知科学と接合するミクロ感性学、経済学と接合するマクロ感性学、とか。
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