前に一度この言い回しを使ったら、これが上品で推奨されるべき言い回しだと勘違いした人がいるみたい。
逆ですからね。
本でもCDでもいいけれど、それについて論評したいと思ったら全力でやればいい。それを読んだ人が興味を持てば、読んでみよう、聴いてみよう、と思うかもしれないし、そうならないかもしれないけれど、それは書き手の知ったことではない。
結局、そういう風に(当該コンテンツについても、読者に対しても)突き放した関係で、「読む」ことに全力で取り組む言葉が一番強いんじゃないかと私は思う。(もちろん「全力で」は、頭真っ白になって、読むべき文脈を落として突っ走る勝手読み、の意味ではないですが。)
で、何かを紹介した最後に、
「どうぞご自身でお手にとってお読みください」
を付け加えることで何が起きるかというと、書き手の免責。
文面上では「是非読んでね」と読者に呼びかけているわけだが、それと同時に、そこには、「その本に手を伸ばすのは、あくまであなたの自己責任であり、私に責任はないですよ」と予防線を張る意図がある。
どっちやねん、というわけだが、どうしてそんな妙な謎かけをするかというと、これが「宣伝の言葉」だからに他ならない。(こんなものを売りつけやがって、というクレームが来たときの逃げ道を作っているわけ。)
そしてこの呪文を最後に貼り付けさえすれば、そこまでに書き連ねたことがすべて免責されるので、多少のウソやいいかげんが混じっていても大丈夫だし、場合によっては、当該の本やCDを読まずに「読んでね」と紹介だけして、他人に押しつけることも原理的には不可能ではなくなる。
(当該商品の「名前」がたくさん露出するのが何より大事、ヒョーロンとか、内容は関係ない、というのが古典的宣伝理論のイロハです。)
そしてそういう「宣伝」の文脈での便利さが際立つ言葉遣いなので、こういう言葉を使うと、逆に、その文章の「読み」の全力投球感が減る。
前に書いた文章は、宣伝中毒に陥った人の姿を鏡に映すような文章を書いてみよう、という実験に過ぎないので、よい子はマネしないほうがいい。(そして、中毒患者は、この程度では何も感じないから無駄だ、ということがわかったのでもう十分。もはや私自身は、ああいうひねこびた文体への興味を失っています。)
「どうぞご自身でお手にとってお読みください」という言葉遣いが含まれていない文章を、どうぞこれからもお楽しみ下さい。(←ね、わざわざ言わずもがなのことを最後にこうやって付け加えると、なんだか、うさんくさい感じになるでしょう?)
合言葉は「脱万博 Beyond Developments」!
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参考:http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20130724/p1
たぶんそれは、西村朗や吉松隆を「万博的なもの」から遠く離れたところで評価する言葉を見つけることでもあると思う。
ちょうど去年の今頃、文楽協会の騒動の頃で、話がややこしくなりそうだったので黙っていましたが、微妙なものですね、これは……。この世の名残 夜も名残 ~杉本博司が挑む「曾根崎心中」オリジナル~ [DVD]
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太棹とソプラノと室内楽によるオペラの再演が来年予定されているようですが、どうも、こんな感じの微妙な感触で宣伝されそうな予感がして、今から憂鬱です。イシハラホール(あそこも色々あって、最後の自主公演の解説は私に回ってきたのだった)での初演は私も聴きましたが、そのとき、プレトークで誰が作曲者と舞台で対談したか、その作曲家が大阪のサントリー財団コンサートで取り上げられたときの企画者は誰だったか、そして芸術祭で賞を得ているけれど、その審査員はどんなメンバーか。調べたら色々わかると思う。再演するなら、細心の注意を払って、知らんぷりのキレイゴトではない意味でのすっきりした形で作品を「再生」……できるなら、そうして欲しいものである。やり方はあるはずだし、上演する側は、おそらくまたその頃は頭に血が上ってゴタゴタしているのだろうけれど、上演を受け止める側が意味を変えてしまえばいいわけです。そういうのが批評だし。ポイントはそこじゃないだろう、と事前情報の渦にイライラしながら、聴けばそれなりに面白がれる何かが見つかる、という結末になるんでしょう。めんどくさい話だが、どうやらそういう回路を通過しないと各方面のバランスが取れないらしいので、まあ、せいぜい頑張ってください。
参考:http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20120824/p1
ちなみに、このリンク先の最後に紹介した映画『冥途の飛脚』(音響監修:武満徹)は昨年秋に商品化されたみたい。文楽協会頑張ってます。市長が公務をやらない間に、世の中は少しずつ動いている。
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