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《作品名》と書かない音楽研究の清々しさ(細川周平編著『民謡からみた世界音楽 - うたの地脈を探る』)

民謡からみた世界音楽―うたの地脈を探る作者: 細川周平出版社/メーカー: ミネルヴァ書房発売日: 2012/03メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 「世界音楽」という言葉がエレガントに生きている企画だと思いました。所収論文を起点に色々な方向…

「中国化」の正体は、挙証責任を他へ丸投げする翻訳主義だったというオチ(『翻訳の政治学 - 近代東アジア世界の形成と日琉関係の形成』)

[3/8 最近の「知識人狩り」について最後に付記。]「臭いニオイは元から断つ」。得体の知れないものに遭遇したら、ひとまずその出所をつきとめる。……ということで、「中国化」の人、與那覇潤氏の博士論文にもとづく最初の著書を手に取ってみた。 翻訳の政治学…

歴史学の「プロ」の「オリジナリティ」とは、リアルでエクセレントな殺戮願望である(與那覇潤『中国化する日本』最終決戦(なのか?))

[注:この文章は途中で何度か転調するので、最後までお読みいただいてからご判断いただくのがよろしいかと思います。]しつこいですが、小津本をどうにかクリアできたので、中国化本へ再チャレンジすることにします。 本書は、[……]専門家のあいだではもう常識…

映画は政治と同期するか?オーケストラ運動はどうなのか?(もう一度だけ與那覇潤『帝国の残影 - 兵士・小津安二郎の昭和史』)

[タイトルを少し変えました。最後に何故か大フィルの話をしています。]しつこくもう一度だけこの本について。 帝国の残影 ―兵士・小津安二郎の昭和史作者: 與那覇潤出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2011/01/14メディア: 単行本購入: 2人 クリック:…

與那覇史観には仏教がない?(與那覇潤『帝国の残影 - 兵士・小津安二郎の昭和史』における「蓮」の解釈)

[2/29 「東京暮色」の音楽についてコメントを追記。] 私個人の趣味についていうと、この「中国化」と「再江戸時代化」の両極の間で揺れ動いた戦後直後の十数年間が、ファンとしては一番燃える(萌える)時代です。(與那覇潤『中国化する日本』、213-214頁)…

『中国化する日本』の10ヵ月前に出たこの本は……

圧倒的な量の情報が抑えた口調で綴られていて、同じ著者が10ヵ月後に『中国化する日本』を出そうとは、たぶんこの時点では予想できなかったのではないかと思える本でした。文体を使い分ける人というか、ほぼ別人格。同じ話を別様に、別のターゲットに向けて…

コンサートという直接金融(『中国化する日本』再読)

中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史作者: 與那覇潤出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2011/11/19メディア: 単行本購入: 12人 クリック: 193回この商品を含むブログ (113件) を見る 中年オヤジとしては、「中国化」した日本の皇帝陛下に虫ケラの如く…

脱欧入亜でブロンを食べよう!(與那覇潤『中国化する日本』)

輪島裕介氏が熱烈に誉めている本。[2/21 琉球/沖縄をめぐる引用・コメント、そしてたぶん届かないであろう輪島裕介先生へのメッセージを追記。] 中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史作者: 與那覇潤出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2011/11/19メデ…

東大人文学の美徳なのかもしれない文化の三点測量が音楽論に欠けている件(末木文美士『日本仏教史 思想史からのアプローチ』)

[2/19 タイトルを一部変更、最後にブックリストを追加。PM 19:20 三度タイトルを変更。]既に何度かご紹介していますが、このところ、いつも持ち歩いて、その時々に気になる項目を繰り返し読み返しています。日本仏教という錯綜した案件をすっきり整理してく…

40代後半・男性・国際派アーチストの対話、その文体の神話作用(小澤征爾、武満徹『音楽』、新潮文庫)

[2/14 少しずつ加筆するうちに、吉田秀和先生を降臨させつつ、最後は大植・大フィルの話で終わる文章になってしまいました。] 神話作用作者: ロラン・バルト,篠沢秀夫出版社/メーカー: 現代思潮新社発売日: 1967/07/31メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 1…

東京を無視して「関西弁」論は成り立たない、ところで、言語学を無視して言語分析は成り立つか?(金水敏『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』)

この「ボケ役=大阪弁」という図式の成立と展開こそ、わたくしは「創られた神話」として学術的に表象の分析をどなたかにしていただきたいものだと思っております。 江利チエミ没後30年、映画「ジャンケン娘」&三人娘映画を観る - 仕事の日記(はてな) この…

音楽と藝術をめぐる「言葉」が問題なのか、本当に?(『季刊アルテス』の書評と、いわゆる「プラスチックの木」の周辺)

いずみホールの会員誌『ジュピター』2月/3月号で『アルテス』VOL.01が紹介されました。 『ジュピター』で『アルテス』が紹介されました (ブログ * ARTES) 『ジュピター』は、少なくとも現状ではホールで無料配付しているPR誌なので、問題ないと判断して書…

英国大学教員ニコラス・クックと当世音楽学院生気質(足立美比古訳『音楽・想像・文化』)

[最後に追記あり。]『ピアノ・ノート』が好評だったせいか、チャールズ・ローゼンの本が次々訳されていますが、ロスの20世紀音楽史、コッホのバッハ、ロックウッドのベートーヴェンなど、最近目につく本格派っぽいクラシック音楽本は「合衆国製」が多くて、…

岡本章、四方田犬彦編『武智鉄二 伝統と前衛』

去年のクリスマス・イヴはアドルノ、ベンヤミン総ざらえをやったので(http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20101225/p1)、今年は「46歳からはじめる分析哲学」(笑)でどうか、と思っていたのですが、昨年6月の明治学院大での武智鉄二シンポジウムがようやく…

1960年代アメリカの近代化論(北野圭介『日本映画はアメリカでどう観られてきたか』)

アメリカの六〇年代というのは先にも触れたように、学生や知識人を中心にリベラリズムが席巻した時代です。ですが、当時のアメリカのリベラリズムは戦後、アメリカを中心として世界秩序(特に「バックス・アメリカーナ」とも呼ばれます)を構想し、具体的な…

「日本オペラ百年の記憶 since 1903」(『グランド・オペラ』vol.30(2003年春号))

[12/16 最後のオマケに一言追記。]

『日本オペラ史1953〜』の関西歌劇団関連

[オペラ「修禅寺物語」の成立史に関する追記あり。]増井敬二『日本オペラ史〜1952』刊行から8年。続編が出ていたんですね。 日本オペラ史1953〜作者: 昭和音楽大学オペラ研究所出版社/メーカー: 水曜社発売日: 2011/11/05メディア: 単行本この商品を含むブ…

聴像論 Theories of Auditory Image は思考を刺激するか?

映像論序説―“デジタル/アナログ”を越えて作者: 北野圭介出版社/メーカー: 人文書院発売日: 2009/01メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 35回この商品を含むブログ (23件) を見る

貴志康一について音楽学ができること(梶野絵奈、長木誠司、ヘルマン・ゴチェフスキ編『貴志康一と音楽の近代』)

2009年11月のシンポジウムの報告書。 貴志康一と音楽の近代―ベルリン・フィルを指揮した日本人作者: 梶野絵奈出版社/メーカー: 青弓社発売日: 2011/05/25メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含むブログ (4件) を見る 貴志康一について、指揮者としての…

吉田秀和『永遠の故郷 夕映』に取り憑くシューベルト

[4/19 追記あり] 永遠の故郷─夕映作者: 吉田秀和出版社/メーカー: 集英社発売日: 2011/01/05メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (7件) を見る 読み終えて書棚へ片づけようかと思って見たら、わが家の吉田秀和の…

リッター・フォン・ケッヘルの主題目録(小宮正安『モーツァルトを「造った」男』)

モーツァルトを「造った」男─ケッヘルと同時代のウィーン (講談社現代新書)作者: 小宮正安出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/03/18メディア: 新書購入: 2人 クリック: 17回この商品を含むブログ (7件) を見る ディレッタンティズムと博物学と主題目録の親…

仮にイギリスやアメリカの大学からクラシック音楽学者が駆逐されたとしても、大勢に影響はなさそうだから、結局はコップの中の嵐なのではないかと思えてならない『音楽のカルチュラル・スタディーズ』

音楽のカルチュラル・スタディーズ [単行本]作者: マーティン・クレイトン,トレヴァー・ハーバート,リチャード・ミドルトンほか,若尾裕,若尾裕ほか出版社/メーカー: アルテスパブリッシング発売日: 2011/02/28メディア: 単行本 クリック: 4回この商品を含む…

アレックス・ロスが最愛の人に捧げる20世紀音楽史

昨年出た二巻本のアレックス・ロスの20世紀音楽史。片山杜秀さんの讀賣の書評を読んだら読みたくなって、さきほど読了。 20世紀を語る音楽 (1)作者: アレックス・ロス,柿沼敏江出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2010/11/25メディア: 単行本 クリック: 4…

ジークフリート・クラカウアー『天国と地獄 ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ』

いつでも買えると思っていたら、欲しいと思ったときにかぎって品切れ中で、なかなか入手できずにいた本。 天国と地獄―ジャック・オッフェンバックと同時代のパリ (ちくま学芸文庫)作者: ジークフリートクラカウアー,Siegfried Kracauer,平井正出版社/メーカ…

戦後の実験・前衛藝術関係で読みかけの本をいくつか

本当に時間がないのですが、一言メモしておきたかったので簡単に。 「具体」ってなんだ?―結成50周年の前衛美術グループ18年の記録作者: 平井章一出版社/メーカー: 美術出版社発売日: 2004/01/16メディア: 単行本 クリック: 21回この商品を含むブログ (6件) …

森彰英『武智鉄二という藝術 あまりにコンテンポラリーな』

[読んだところまでの感想を随時、後ろに書き足しています。]今年最初の演奏会、少し早めに大阪駅へ着いたので、紀伊國屋書店へ寄り道すると、古典芸能コーナーにこんな本が。 武智鉄二という藝術 あまりにコンテンポラリーな作者: 森彰英出版社/メーカー: 水…

ルシュール先生、アルマ・マーラーにご機嫌斜め

いつも利用させてもらっているドビュッシー評伝の一節について、あるブログで見かけて、おや、と思ったので調べてみました。 アルマ・マーラーは[…中略…]ドビュッシーの私生活を巡ってパリに広まっていた陰口に基づいた信じ難い話をでっちあげ、リリーが自分…

レコード歌謡・笠置シヅ子・ダンスホール(「演歌は日本の心」を留保するなら、「みなさまのNHK」イメージや、竹中労悪人説にも留保が必要かもしれません)

道頓堀ジャズや関西のダンスホールとレビューや服部良一の活躍を伝えてくれる本、奇しくも表紙のデザインが似てしまっている二冊が相次いで出たので、早速購入。 ニッポン・スウィングタイム作者: 毛利眞人出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/11/26メディ…

音楽書の日本語訳は製本が立派になる、の法則?

前にも書きましたが、Alice M. Hansen, Musical Life in Biedermeier Viennaという本は、メッテルニヒ時代の音楽の検閲を扱っていて、ドイツ語訳は「検閲されたミューズ」の題を添えて出版されて(写真左)、一方、邦訳は「音楽都市ウィーン 黄金時代の光と…

『思想』12月号、シューマン生誕200年特集:補遺

せっかく買ったので、無駄にしないように読書ノートをつけてみた。