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小鍛冶邦隆『作曲の思想』をヴァルター・デュル『Sprache und Musik』の邦訳とあわせて読む

[12/1 最後に小鍛冶邦隆さんの文体についてあれこれ書き足しています。色々なことを考えさせられる本で、こちらも必死で読んでおり、文章がいつも以上にとっちらかっていて申し訳ないのですが……。]読書の秋です。 作曲の思想 音楽・知のメモリア作者: 小鍛冶…

田之倉稔『モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯』

モーツァルトの台本作者 ロレンツォ・ダ・ポンテの生涯 (平凡社新書)作者: 田之倉稔出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2010/08/12メディア: 新書 クリック: 4回この商品を含むブログ (3件) を見る これから読むところですが、モーツァルトの台本作家が晩年はア…

アプレゲール武満徹

武満徹 自らを語る作者: 武満徹,安芸光男出版社/メーカー: 青土社発売日: 2009/12/18メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る 1990年9月末、武満徹の還暦の年のロングインタビュー。『マリ・クレール』同年11月号に一部は掲載されたけれど、これ…

渡辺佐『オーストリア辺境の旅』(含む:「聖フロリアンの鐘」新訂)

ひきつづき本のご紹介。大阪フィル1975年のヨーロッパ演奏旅行は、聖ブロリアン教会でブルックナーの7番を演奏したエピソードで知られていますが、渡航資金のためにと、一般有志を発起人とする募金運動が盛り上がったりもしました。音楽評論家、渡辺佐さん…

C. ヴォルフ『ヨハン・セバスティアン・バッハ 学識ある音楽家』と高橋悠治「高原の空気のように」(『柴田南雄とその時代 第1期』所収)

今日読んだ本と文章のこと。 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ―学識ある音楽家作者: クリストフヴォルフ,秋元里予出版社/メーカー: 春秋社発売日: 2004/12/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る このヴォルフの本は、先日、大フィル定期の「…

織田作之助と井上靖の戦後関西音楽小説

私が大学へ入った頃は、生協の書籍部に『構造と力』が平積みしてあって、これは通俗的で恥ずかしい勘違いかもしれませんが、その頃翻訳が出たダールハウス『絶対音楽の理念』を、柄谷行人の『近代日本文学の起源』と比較しながら読めてしまうところがあった…

『作曲家・渡辺岳夫の肖像』

[7/6 一行追記あり。岡田×片山対談本はやっぱり(そのうち)出るみたい。]渡辺岳夫はアニソンの世界に燦然と輝く方。その筋で既に絶大な支持を得ていらっしゃるようですし、私が何か言うのはおこがましいとわきまえております。一気に読みました。 作曲家・…

東京藝大的なもの(湯浅譲二、西村朗『未聴の宇宙、作曲の冒険』、森鴎外訳オペラ『オルフエウス』)

[3/27 森鴎外訳「オルフエウス」のあとで入手したヴォーカルスコアについて、最後に追記しました。]近代日本の洋楽史には、東京藝大の歴史や業績から外れたところで色々面白いことが起きていたようなので、主にそんなことばかり調べていますが、たまには藝大…

岩波新書の林屋辰三郎と山椒大夫

芸能史研究の大恩人、林屋辰三郎先生の岩波新書『京都』は、京都案内の体裁をとりつつ、日本史の歴史入門にもなっていて、昭和38年に出たものが、今も版を重ねています。 京都 (岩波新書)作者: 林屋辰三郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1962/05/28メディ…

「1Q84」vs「1968」

わたくしは、大栗裕との関連で、このところ仏教や日本古来の神々への信仰に関する本なども少しずつ読んでいますが、現時点でオウム真理教について村上春樹さんのご高説をお伺いしたいとは思わないし、ジョージ・セル指揮のヤナーチェクを今聞き直したいわけ…

「思想地図」VOL.3&原武史「滝山コミューン1974」

「思想地図」VOL.3という本の巻頭に磯崎新、浅田彰、宮台真司、東浩紀、あと「ゼロ年代」の本の人などが集まったシンポジウム記録があって、あきらかに司会の東氏以外、誰も幸福ではないと思われる会合なのに、どうやら東氏はこの本を「こういうのを僕は作り…

音楽批評をプロデュースする人、される人

アルテスパブリッシング社のブログに6/2の岡田暁生×片山杜秀対談(私は行ってません、京大は市外から平民が公共交通機関で行くには不便な場所……)のレポートが出ていました。http://www.artespublishing.com/blog/2009/06/04-355テーマから推察すると、前半…

吉岡洋・岡田暁生編『文学・芸術は何のためにあるのか?』と、岡田暁生×片山杜秀「21世紀の音楽批評を考える」(京大人文研)

吉岡洋・岡田暁生編『文学・芸術は何のためにあるのか?』という本を見ると、岡田暁生さんが「音楽・芸術は生きる希望を与えてくれるか?」という論文(エッセイ?)を寄稿していて、三島由紀夫「小説家の休暇」と並べて、片山杜秀「音盤考現学」が関連図書…

伊東信宏「中東欧音楽の回路―ロマ、クレズマー、二〇世紀の前衛」

出たばかりの本ですが、とても面白かったです。 中東欧音楽の回路―ロマ・クレズマー・20世紀の前衛作者: 伊東信宏出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/03/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (20件) を見る

明治の偉人たちはBest and Brightestだったのか?(奥中康人「国家と音楽」の記事にトラックバックをいただきました)

確か「撤退戦の研究―日本人は、なぜ同じ失敗を繰り返すのか」だったと思いますが、ヨーロッパがアジアを植民化していった時って、ある時期までは港しか占領しなかった、要所要所だけ占領して砲艦外交で恫喝し、交渉が決裂したときに軍隊を送り込んだのであり…

音楽文化史の陥穽?(東谷護編著『拡散する音楽文化をどうとらえるか』、国際日文研シンポジウム「戦間期大阪の音楽と近代」)

最近読んだ本と、先日参加させていただいたシンポジウムのお話です。 拡散する音楽文化をどうとらえるか (双書音楽文化の現在)作者: 東谷護出版社/メーカー: 勁草書房発売日: 2008/12/06メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 13回この商品を含むブログ (8件)…

中丸美繪「オーケストラ、それは我なり 朝比奈隆 四つの試練」を読むためのブックガイド

少しずつ紙媒体には書評も出ているようですので、朝比奈隆生誕100年の年に出た中丸美繪さんの評伝について。(あわせて、中丸さんの前著、杉村春子伝についても後半で書いています。)(11/5、全体の構成を見直しつつ、「朝比奈隆とブルックナー」の項目…

「日本戦後音楽史」上・下

昨年前半に出た本で、読まねばならないと思いつつ後回しになっていて、ようやく購入しました。 日本戦後音楽史〈上〉戦後から前衛の時代へ 1945‐1973作者: 日本戦後音楽史研究会出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2007/02メディア: 単行本この商品を含むブログ…

「モーツァルト→ハイドン→ベートーヴェン」という順番、それから「起業する音楽家」のこと(岡田暁生「CD&DVD51で語る西洋音楽史」)

岡田暁生さんの新著「CD&DVD51で語る西洋音楽史」には、この人にしか書けないと思わせられるところがもちろんたくさんあって、「ヤラレタ」と思ったのは、ウィーン古典派の話を、年齢・生まれ年の順番(ハイドン→モーツァルト→ベートーヴェン)ではなくて、…

黒船の「国難」は本当に深刻だったのか - 奥中康人「国家と音楽」

明治政府の音楽取調掛と上野の東京音楽学校で、日本の唱歌運動を主導した「洋楽受容」黎明期の最重要人物、伊沢修二の思想と足跡を、故郷、信州・高遠藩の洋式軍楽・少年鼓手時代まで遡ってまとめた本。 国家と音楽 伊澤修二がめざした日本近代作者: 奥中康…

岡田暁生「恋愛哲学者モーツァルト」

恋愛哲学者モーツァルト (新潮選書)作者: 岡田暁生出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/03メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 28回この商品を含むブログ (19件) を見る

伊東信宏編「ピアノはいつピアノになったか?」

今日は、午後からザ・フェニックスホールの2007年度自主公演の発表記者会見に行きました。公演については、ホールのホームページなどに順次情報が出てくると思います。http://phoenixhall.jp/sponsor/index.html(←ここに出ている以外にも、バボラク(Hr)&竹…

岡田暁生「西洋音楽史 - 「クラシック」の黄昏」

(mixiの日記の加筆・再録です。)岡田暁生「西洋音楽史 - 「クラシック」の黄昏」(中公新書) ISBN:4121018168今の感覚で書かれた、日本語の適当な音楽通史がない、というのは、「音楽史」の授業をする時に長らく不便でたまらないことでしたので、出版を心…

増田聡「その音楽の<作者>とは誰か」(3)

まず、本書成立の周縁事情について。本書のあとがきに、大阪大学文学研究科に提出された学位論文にもとづいていると記されています。私の母校でもある学校です。おそらく他校でも同様のことが起きているかと思われますが、私たちが在籍した研究室では、90年…

増田聡「その音楽の<作者>とは誰か」(2)

excite. Booksのインタビュー 第15回 パクりパクられて生きるのさ - 増田聡インタビュー其の二 http://media.excite.co.jp/book/daily/friday/015/で興味をひかれたので、途中をとばして(乱暴な読み方で申し訳ない)、終章「<作者>の諸機能」を読んでみま…

増田聡「その音楽の<作者>とは誰か」

増田聡さんの新著、ひとまず、最初の方を拝読しました。増田聡「その音楽の<作者>とは誰か - リミックス・産業・著作権」(みすす書房)ISBN:4622071258特に、クラブ・ミュージック小史は、知らないことばかりで面白かったです。ただ、後半の核になってい…

増田聡、谷口文和「音楽未来形」(3)

増田聡、谷口文和「音楽未来形ーデジタル時代の音楽文化のゆくえ」ISBN:48969189913/26、3/27の続き。増田さんご自身による「中間まとめ」を踏まえた、補足です。これは、昔からずっと疑問に思っていることなのですが、「クラシック原理主義」は、幻影だと思…

増田聡、谷口文和「音楽未来形」(2)

増田聡、谷口文和「音楽未来形ーデジタル時代の音楽文化のゆくえ」ISBN:4896918991(この本全般の感想は、その1に書いています。)111-112頁で、岩城宏之「楽譜の風景」の、「第九交響曲」終楽章のディミニュエンド問題が取り上げられています。昔から、こ…

増田聡、谷口文和「音楽未来形」

増田聡、谷口文和「音楽未来形ーデジタル時代の音楽文化のゆくえ」ISBN:4896918991最初に思ったのは、コンピュータなどの技術解説書のような文体だな、ということでした。最新のテクノロジーをめぐる議論(の文体)にひきずられたのかな、と、はじめは、その…

「嗤う日本のナショナリズム」(2)

北田暁大「嗤う日本の「ナショナリズム」」ISBN:4140910240なんとなく、証文の出し遅れ、という印象を受けてしまったのは、議論のスタンスとして、ised倫理研(2ちゃんねるは終わった、さあ次へ)の前提のような話なのに、「倫理研」ログより後のタイミング…